第16回 香港ビジネス懇話会 『チャイナ・アズ・ナンバーワン』
開催日:2009年11月25日(水)15:00−17:00
所属名:ビジネス交流委員会
場 所:日本橋HSBC大会議室
日本香港協会(東京)では11月25日HSBCビル大会議室に於いて、第16回香港ビジネス懇話会を開催しました。今回はアジア・中国経済の研究の権威である(株)野村資本市場研究所シニアフェロー 関 志雄(かん しゆう)氏をセミナー講師にお迎えして、2008年9月のリーマンショック以降世界経済が金融・経済危機に陥っている中で、唯一強みを発揮している中国経済の現状や課題、発展への今後のシナリオなどを様々な角度から詳細な資料を駆使し解説していただきました。
<関氏の略歴>
57年香港生まれ、79年香港中文大学経済学科卒、86年東京大学大学院経済学研究科博士課程終了、96年東京大学経済学博士。
香港上海銀行本社経済調査部エコノミスト、野村総合研究所経済調査部アジア調査室室長、ブルッキングス研究所客員フェロー、経済産業研究所上席研究員などを経て現在、野村資本市場研究所シニアフェロー。
■講演では以下が説明されました。
1.中国が政治中心の路線から経済建設中心の路線に転換して2009年に改革開放30周年を迎えた。この間、年平均9.8%の高成長を遂げ、実質GDPが約16.4倍に、一人当たりのGDPが11.7倍となった。2010年にはGDP規模で日本を抜き2030年までには米国を上回るだろうと見ており、世界経済に於ける中国のプレゼンスは大いに高まった。特に他の先進国がマイナス成長となっている中で、景気対策の効果もあって中国は先進国に先駆けて景気回復を実現し中国一人勝ちの様相が顕著になってきている。
2.中国が世界一の水準や規模に達している分野は急速に増えている。世界一の高成長、世界一の輸出大国、世界一の鉄鋼・自動車生産、世界トップ・スリーを占める中国三大銀行、世界一の経常収支・外貨準備高、世界一の人口大国、世界一の温室効果ガス排出国など数多くの分野に亘っている。
このようにGDPなどの規模では日本と並んだが人口一人当たりで見ると生活水準は日本の40年前のレベル。但し、後発国のメリットがあり成長余力はまだ十分に持っている。
3.この30年間の高成長を支えてきた背景には、国営企業を柱とした社会主義経済から実体的に市場経済に基づいた資本主義経済への移行があって、言い換えれば、社会主義経済を堅持してきたからではなく放棄したから成長を遂げたといえる。これからの中国は資本主義の初級段階から(1)人治から法治へ(2)一党独裁から民主主義へ(3)公有制から私有制へ(4)効率一辺倒から公平重視へと、成熟した資本主義へと進んでいくものと思われる。
4.中国は経済大国として台頭してきたが、一方ではこれからも高成長を続けるための解決しなければならない大きな課題を抱えている。
1)政治改革の遅れ
経済の資本主義化と共産党一党の独裁維持という矛盾が大きくなっており、
自由・公平な選挙の実施や民主と法治が同時に行われる改革・民主化が必要
2)格差の拡大と不公平な社会の存在
成長の影に格差が拡大している。
これまでの緩やかな改革から急進的な改革が求められている。
都市部/農村部、東部/西部の地域格差、貧富(所得)の格差の
拡大解消と、「調和のとれた社会」をめざす改革を行うべき
3)国有企業の非効率
民営化により国有企業の比率を下げることがカギ
4)少子化と人口の高齢化
すでに労働力過剰の時代から不足の時代に変化している。
労働力移動を促す戸籍制度改革が必要
5)環境の悪化
地方政府・企業が環境対策の重要性を自覚することが必要
最後に、「中国は日本にとって永遠の隣人である。中国の混乱、貧困を望むのではなく、安定と繁栄を考えることが日本の国益となる」と話を締めくくられ約2時間の長時間にわたる中味の濃い講演を終了した。
更に、本講演前に届いた事前質問「香港対上海の戦略」(香港は先々、上海に負けてしまうのではないか、そのための対策は)について次のコメントがあった。
産業構造は労働集約→技術集約→資本集約産業へと発展してきており、労働・技術・資本は移動可能であるので、中国はいつでも手に入れることができ、この分野では香港は上海には負けてしまう。しかし、まだ中国には制度(institution)上の不備が残っている。“制度集約産業“と名づけても良いが、イギリスから受けついだ良き法律制度が香港の強みである。
契約履行が勝負の分かれ目になるような局面や、中国国内では種々制限されている人民元のオフショア取引など、こういった分野では香港は当面強みを発揮できると考える。