第21回 香港ビジネス懇話会
『香港で生産を続けて25年』
講師:ウチヤ・サーモスタット㈱ 代表取締役社長 打矢正雄氏開催日:2011年1月27日(木)
所属名:ビジネス交流委員会
場 所:中央区日本橋 HSBC大会議室
電気機器の過熱を検知してスイッチを制御するサーモスタットを生産の柱に、「山椒は小粒でもピリリと辛い」をモットーに企業規模は小さくとも大企業にも負けない設計・生産技術を培なって世界企業を目指しているウチヤ・サーモスタット㈱の代表取締役社長 打矢正雄氏を講師にお迎えしました。香港で現地会社UCHIYA HONG KONG LTD(呼称 UHK)を1986年に立ち上げ、以来25年間 特にヘアドライヤー用サーモスタットで市場占有率世界No.1の実績をあげて品質や安全などの面でも高く評価され数々の優秀賞を授与されているユニークな事業活動の要点を、写真・図表などを使いながら具体的にお話いただきました。
(以下、社名などで敬称略)
1.ウチヤ・サーモスタット株式会社の概要
1956年 打矢製作所として創業
1959年 株式会社設立
資本金 7600万円
業容:電機用・自動車用部品(サーモスタット、サーマルプロテクタ、サーモスイッチなどの開発、設計、製造、販売)
海外子会社:UCHIYA HONG KONG LTD
1986年設立 従業員200名 製造及び中国での生産管理を行い全員香港人だけで運営されている工場で、日本のウチヤ本社が部材、設備供給、技術指導を行っている。
香港のほか欧州の顧客向けにアイルランドにUCHIYA IRELAND LTD(1994年設立、従業員50名)を有し、さらに中国・深圳に中間加工部分を担当してもらっている協力工場(従業員40名)がある。
2.ウチヤの経営理念とその実践
・製品とサービスを通じて“社会に安全を供給する”(世界の安全基準をクリアーする)
・環境の変化とニーズに対応して“常に新しい方法を考えよう”(技術で勝負、国際的工業所有権の確保)
・世界に於ける“小さな一流企業を目指す”(頂点に立ったと思ってあぐらをかくな、一流は目指すだけでいい、常に上を目指して挑戦!)
この理念のもと2001年から2010年にかけ、世界にない新しい方法とモノを造り世界に提供することを進めてきた。今後は世代交替(単純な若返りの交代ではない)の時代を迎え調和と変革が求められている。向こう10年、適地・適業・適正規模-他社との協同活動をめざし成長発展と安定継続のバランスを保つ中長期方針も策定した。さらにサーモスタットと並ぶ第二、第三のまったく新しい分野の開発研究も手がけており、東大などとの産学協同研究やウチヤの技術に興味を持ったガス会社、自動車メーカーなどと将来の燃料電池自動車や再生可能エネルギーシステムなどへの技術応用につき調査研究を行っている。
3.香港での25年間の生産が成功しているキーポイント
リーマン・ショック後はUHK社も赤字に転落したが、再び配当も可能になりウチヤのドル箱子会社となっている。これもUHK社は日本人のいない100%現地化された会社であり、UHK総経理も25年前ゼロから共に立ち上げたパートナーで、日本にも6年間滞在し人事管理を習得した香港人で、機械を管理する技術者より、人間の判る現地人に現地会社の管理を任せたことが決め手だったといえる。
日本の大会社のような日本人の高額な派遣駐在費用が出せなかったことから、信頼できる香港人に任せ現地化したことが結果としてよかったといえる。
4.中国で悩まされていること: 中国企業の模造品対策
サーモスタット・シェア70%などウチヤ製品の評判が良くなるにつれ、中国企業が地元電子メーカーにコストダウンのため模造品をつくらせていた事例がでてきた。フォーラムに入り対策活動や裁判をやっているが効果が上がっていない。米国の品質保証機関(UL)への働きかけは中国国外では効果があったが、中国国内は知的財産権保護が不備で模造品撲滅の効果がなかなか期待できないのが実情。
5.主な質疑応答
1)Q:深圳の協力工場の状況は
A:労働コスト(加工賃)が20%も上がっていることが問題だ。顧客には
15%の製品値上げを認めてもらったり、中国取引規模も上昇中なのでコストアップは吸収できるとみている。
2)Q:UHK社総経理の報酬決定の基準は、また後継者はどうするのか
A:日本の取締役の報酬に基づき決定。後継者は打矢創業者一族から出すことも
なく、日本から派遣社員を送り込むことを考えていない。現総経理の子息でもよいと思っている。
3)Q:一般的な日本企業は香港にアドミのみを置き、中国に工場などの主力を置いているが、ウチヤは逆だ
A:利益を重視するならそうしたいが、ウチヤはULなどの世界の安全規格をクリアしなければならない。中国に生産主力を移すと安全をキープするのが難しい。また中小企業として中国内で直接生産をオペレートするには限界がある。