第26回 香港ビジネス懇話会

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第26回香港ビジネス懇話会報告書

開催日:2012年3月22日(木)
会 場:HSBCビル10階会議室
講 師:香港テクノセンター社長 佐藤征洋氏
テーマ:「中小企業の中国進出、香港からの視点」
参加者:37名

<講師プロフィール>
1967年九州大学工学部・化学機械工学科卒業。同年住友商事入社、プラント輸出、香港大学留学、香港支店、本社・機電中国貿易推進室、南京事務所長、北京事務所次長、本社・プラント第ニ部長、香港住友商事社長、理事、住友商事マシネックス社長等を歴任し2007年より現職。

<香港テクノセンター(日技城有限公司)>
中小企業の中国進出を支援するため、20年前に有志により香港で設立。香港に本社、中国深センに来料加工貿易を主とした工場を所有。進出する中小企業に工場の一部を貸与し、人事・労務、税関、輸送等の問題を支援している。20年間の支援の結果、80社が既に独立して独自の会社・工場を運営している。現在は35社のテナントで運営中。


中小企業の中国進出、香港からの視点

1.中国進出の現状
(1)現在の概況
・チャイナプラスワンと人件費等のコスト上昇の要因で、日本からの中国進出数は鈍化しているものの、現在でも中国進出は続いている。
・華北(北京、天津他周辺)は中央政府のひざ元に位置する大市場の一つであり、全中国を見据えた統括・販売機構等が中心となっている。
・華東(上海、江蘇省、浙江省)は中国最大の消費市場であり、全国市場への参入を目的に、従来から製造、小売、サービス等広い分野の進出が多い。
・華南(広東省周辺と香港)は低コストを利用した、中国最大の輸出加工基地として発展したが、最近では、中国市場向け製造拠点としての進出も増加している。 
(2)中小企業の進出形態
・製造業では、大手メーカーの進出に伴う下請けとしての進出が多い。
・単独の進出としては、独自の技術を持った製造業や流通小売業、サービス業などの進出がある。
(3)華南地区の特性
・従来は加工貿易による中国からの輸出主導、大企業進出に伴う下請け工場として、独資企業の設立や、来料加工貿易方式による進出、香港企業としての進出、あるいは日中・日港合弁での進出等が多かった。
・最近では華南消費市場を目指した進出や、香港の有利な機能を活用しての進出が増えている。

2.中小企業の海外進出先の変遷
(1)中小企業関連銀行調査(2009年前後の一指標-製造業)
・既存の進出先としては以下のとおりである。 
中国57%、その他の北東アジア12.5%、タイ7.6%、ベトナム3.8%、インドネシア3.0%、フィリピン2.5%、米国5.8%  
・新規進出先では以下のようである。
 中国68.6%、その他北東アジア5.7%、タイ1.4%、ベトナム12.9%、
・上記のように、最近はチャイナプラスワンの方針で東南アジア方面、特にベトナムへの進出がが増加している。
(2)華南地域の状況
・華南地域は依然として工業製品の部品製造基地として、重要な地位を占めている。
・華南地域では電力不足が深刻な問題となっている。
・ベトナム等東南アジアに進出した工場は、部品を華南地域から輸入している。

3.中国に進出する際の留意事項
・F/S(事業化調査)を徹底することが重要である。
・中国は変化が激しく、商習慣も違うが、人によって見方もさまざまである。
・リスクの分析とその対応策を検討することは欠かせない。
・進出の形態や投資規模は十分に検討しなければならない。
・進出にあたっては、内部の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を整備することが必要である。
・調査は経営トップが自ら行い、各種の対応や最終判断をすべきである。
・進出に当たって、現地の担当者はベストな人材を選定すべきである。
・中国は広大で複雑な国家であるため、コンサルタント、会計事務所、取引先、金融機関等の案内役や指南役が必要である。
・中国は地域や都市によってインフラが違うので注意すべきである。

4.中国進出企業の最近の傾向と問題点
(1)労務問題
・2008年に労働雇用法が施行され、4年が経過した。
・政府の労働者保護政策により労働者の意識や行動が変化している。
・最近の労働者は会社の寮には入らず、仲間と共同でアパートを借りていることが多い。
・賃金が上がり女性社員の服装や持ち物もすっかり変わり、ほとんど携帯電話も持っている。
・携帯電話で友人と情報交換するため、転職する機会も増加している。
・経営者に対する労働者の要求が強くなり、集団交渉やストライキが頻発している。
・現在、中小企業にとっては労務管理が大きな問題となっている。
・労務問題を解決するには、弁護士等からアドバイスを得ることが望ましい。
・会社の都合で従業員を解雇する場合は退職金の負担が大きいため、人員削減等をするには十分な注意が必要である。
・台湾系や韓国系の企業では、経営不振で夜逃げするところもある。
・中国では労務に関する法制度の変更が頻繁に行われる。
(2)コストアップ
・中国で低賃金労働者を求める時代は終焉を迎えている。
・中国の労賃は急上昇し、すでにタイと同レベルである。
・第12次5ヵ年計画でも、毎年の人件費上昇率を13%以上としている。
・ローテク関連の製造業は進出が難しくなっているが、ハイテク関連企業はまだ有望である。
・ローテク企業はハイテク企業への移行や、機械化によるコスト削減を検討するべきである。
・ローテク企業も内陸部への進出ならチャンスがある。
・広東省の深センでは公害に対しても管理が厳しくなっている。
・巨大消費市場をターゲットとした製造業、商業、サービス業の進出が増加している。
(3)人材の確保
・日系企業にとっては、転職率が高く人材確保が難しいことが大きな問題である。
・日系企業の人気が低い理由として、不透明なキャリアパス、少ない権限委譲、日本企業の賃金水準、上位役職、技術者の低待遇条件(日本と横並び)、日本人責任者の海外業務管理能力不足等が挙げられる。
・大手の自動車会社では、初任給が2,500〜3,000元、台湾系のFOXCONでは2,500元である。
・テクノセンターの初任給は1,500元であるが、労働条件等を守るため信頼されており、現在約2,000名が働いている。ただし、転職率は200%近い。
・大手の日系企業は信頼感があるため定着率も高い。
(4)中国市場の特異性
・日本の商習慣は通じないことが多い。
・政治体制とビジネスの関連性が強く、政策により影響を受けやすい。
・この数年の状況は、「加熱と過剰」⇒「冷やしすぎ」のサイクルになっている。
・法律、条令、規則、指導意見等、法体系が複雑でわかりにくい。
・法律や制度の解釈がまちまちで、運用が異なることも多い。
・立法や司法は中国共産党では下位に置かれている。
・その他にも、ビジネスモラル、信用リスク、代金回収等の問題がある。
・商標権・特許権等に関するトラブルやコピー問題も多い。 
  
5.中国進出と香港の活用
(1)香港の優位性
・自由貿易港、規制が少なく自由度の高い経済活動、安価で容易な会社設立、充実したビジネスインフラ等の条件が備わっている。
・低い所得税率(法人税16.5%、輸入関税ゼロ)に加えて、中国−香港間の配当送金手数料が5%(中国−日本間は10%)、オフショアの収入は無税等、税制面のメリットが大きい。
・金融が自由化されているため、ほとんど世界中の通貨取り扱いが容易で、低コストで資金調達が可能である。
・人民元での資本金送金や貿易決済等が可能で、人民元の国際化では最先端である。
・CEPA(中国・香港経済緊密化協定)により、香港企業の中国進出や香港製品の中国向け輸出が優遇されている。
・情報が自由化されており、質の高い情報が入手可能である。
・中国と東南アジアへの玄関として、ショーウィンドウの機能を果たしている。TDC(香港貿易発展局)では、1年中さまざまな展示会を開催している。
・香港企業の中国ビジネスを活用するチャンスがある。
・香港人の効率的なスピード感やビジネス感覚、ノウハウ等が学べる。
(2)香港機能の活用
・中国や東南アジアでのビジネスの統括会社としての活用が期待できる。
・香港の企業と連携してCEPA を活用することができる。
・中国やアジア市場への進出や販路拡大の拠点として活用できる。

6.今後の中国進出
・優れた技術や高い付加価値を持った企業にはまだまだチャンスがある。
・広東省の来料加工貿易については、優遇条件がいつまで続くか不透明である。
・東莞の企業の来料加工ライセンスが3年延期されたので、深センでも延期の期待がある。
 (少なくても交渉の余地はある)
・将来は来料加工貿易はなくなる可能性がある。
以上





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