第27回 香港ビジネス懇話会
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『香港の役割・機能の変化と日本企業の香港活用方法』講師:Mizuno Consultancy Holdings Ltd 代表取締役社長 水野真澄氏
開催日: 2012年 5月24日(木)
所属名:ビジネス交流委員会
場所:日本橋 HSBCビル 10F 大会議室
大手商社 丸紅の財形部門、丸紅香港及び同社出資のコンサルタント会社の勤務経験を経て2008年に独立後、自らのコンサルタント会社を香港に設立し、香港永住居民証を持つ香港を中心に中国本土及び日本との間を頻繁に行き来しながら活躍されている水野真澄社長に、人民元決済の規制緩和、日本の税制変更、日本・香港租税条約の締結・発効などの最近さまざまな環境変化が起こっている中で香港の役割の変化や中国進出日本企業の香港活用のメリットなどを、270社の顧客を有するコンサル実務に裏付けられた事例も交え、お話しいただきました。
水野社長のプロフィール:
1963年生まれ、1987年早稲田大学政治経済学部卒。同年丸紅入社。
同社財務経理部門、1997年より丸紅香港華南有限公司、同社出資のコンサルタント会社(M&C香港、上海)で勤務した後、2008年に退職。
2008年9月、香港にMizuno Consultancy Holdings Ltdを設立する。
現在は上海、広州、日本(横浜)にも拠点を開設し、中国・香港で活動する日系企業に対する幅広いコンサルタント事業を展開している。新聞・雑誌の連載他、著書が多数ある。
■講演の要旨
1.中国ビジネスにおける香港の位置づけのこれまでの推移
1980年代以降、広東省で委託加工生産を行い、調達・販売管理、決済などのオペレーションは全て香港で行うという中国本土の低コストと香港の自由な為替管理・フリーポートとしての特徴を組み合わせた委託加工スキームが香港を対外貿易の窓口として盛んに行われた。その後中国本土の発展を受けて従来型の低付加価値の委託生産が歓迎されなくなりつつある中でアジア金融通貨危機が勃発、SARS(新感染症)が香港・広東省で蔓延するなどのトラブルや1997年の香港の中国返還が近づくにつれ返還後の香港の将来を危険視する向きもあり香港経由の中国投資が停滞したりしたが、中国返還後は、香港と中国本土の制度的な一体化が進み、香港の自由な制度を守り、且つ、香港と中国本土間で2004年の自由貿易協定(CEPA)や1998年の第一次、2006年の第2次租税協定を締結することによって香港/本土の取引を保護する規制緩和や租税上の恩典を与えるなどの動きが顕著となってきていた。
2.香港活用のメリットを引き出す最近の経済環境変化
① クロスボーダー人民元決済の解禁
2009年より試行が始まり、国際貿易のみならず2011年に外国からの人民建ての出資が認められるなど次第に自由化されつつある。香港では本土金融当局との取り決めにより、香港企業の人民元口座開設、人民元口座間の資金移動、人民元と外貨(人民元以外の通貨)の換金が自由化され、中国ビジネスを行う香港企業間で人民元建て取引が可能になった。香港が一大人民元オフショアセンターとなっていることから為替リスクのヘッジ、中国現法などの資金ニーズの解決などに柔軟性が持てるようになる。
② 香港・中国本土との租税協定
二重課税防止条項、183日ルール、恒久的施設の定義などの整備に加え配当利子などに優遇税率が適用される。配当金に関する源泉徴収は日本宛直接配当のケースより香港経由の方が半分に軽減。
③ 日本・香港租税条約(2011年8月14日発効)
日本企業に対しても香港における183日ルールの適用などその他の条約締結国と同様の扱いがされる。
④ 地域統括会社の活用
複数の法人を有する場合、地域統括会社を設立し管理を一元化してオペレーションの効率化を図ることが出来る。中国国内でのこの会社の業務目的が、販売の一元化会社或いは経営管理・業務管理を目的とする経営支援会社であれば設立は容易であるが、持株会社であると最低資本金や資格審査が厳しい。香港では制限なく会社設立が可能であるが、香港持ち株会社は一般の外国法人と同じ扱いとなるので管理の一元化のメリットは享受できない。
3.結論
香港の役割は加工貿易・対中貿易の窓口としての位置付けから、投資拠点としての位置付けに変化し、そのための制度整備も進んでいる。日本の配当益金不算入などの税制改正が香港にとって有利な形で実施された結果、対中投資拠点としての香港活用メリットが向上している。
これに香港における人民元金融機能の向上が加われば、投資拠点としての香港の位置付けは一層重要なものとなる。
ただし、節税目的だけの中身・実態のない法人を香港に作っても日本のタックスへブン税制の網に引っ掛かることになりかねないので設立・維持コスト共に状況を十分検討すべきである。