第28回 香港ビジネス懇話会

(画面が中断されましたら、スクロールしてご覧ください)

第28回 香港ビジネス懇話会 [HSBCグループの協力による金融特別セミナー]
『昨今の人民元の国際化の進展と今後の中国金融取引の動向』
開催日: 2012年 7月17日(木)
    所属名:ビジネス交流委員会
    場所:日本橋 HSBCビル 10F 大会議室
    
    2011年12月25日に日中首脳会談が行われ日中間で人民元建ての貿易を促進する合意がなされ、更に本年3月に人民元建てクロスボーダー決済に関わる試行企業を指定、6月12日にはこれらの企業は法律に基づき人民銀行、財政部、商務部などの6部門の管理のもと、人民元建ての輸出入貨物貿易決済業務を実施できると発表された。    
    貿易コストの軽減効果や人民元を使うことで取引の透明性が高まるなどのメリットがあることから、人民元建ての決済が日中間でも増加するのではと関心が高まっている中で、香港上海銀行(HSBC)グループの四名の皆様にそれぞれの専門の分野から詳細な解説をお願いした。    

■講演の要旨

1.「最近の中国経済の国際化」
HSBC証券東京支店 マクロ経済戦略部長  白石誠司氏
・GDP,個人消費、輸出入、鉱工業生産などの統計数値は消費者物価指数を除き下降気味となっているが極端な景気後退はないだろう。経済の安定成長、物価の安定、経済構造の調整などを通じ持続的成長を模索していくであろう。
・中国はハードランディングしてしまうのかという懸念は杞憂だ。議会対策が不要で金融・財政緩和策をトップダウンで迅速にできることは他国とは違う強みだ。天安門事件後の混乱など国内政治の混乱期以外は、欧米の金融不安などの外的要因によって成長が鈍化したことはない。
 欧米の経済減速で中国の輸出も影響を受けているが、輸出依存度は低下しており、それよりも所得や小売売上高が消費を下支えし、建設投資も民間の減少を公的住宅建設がカバーするなどのプラス要素もあり不安要因は少ない。
・中国の財政は日本の借金漬けの状態と異なり、債務残高は少なく健全で財政出動(体力)は十分にある。今後も8%の経済成長堅持しつつ、地方への配分を配慮(不満の解消)することに力を入れていく。さらに今年は個人所得税、中小企業付加価値税や営業税の免除など減税政策を強く進めていくだろう。  
(準備率の引き上げの可能性や利下げの状況など金融緩和の現状、また経常収支・対外債務などの指数からみた新興国の中での中国の外部ショック耐久性の強さ、今後の中国成長の源泉は人口増加ではなく 農村部の中流化・都市化にあることや、2050年には中国は経済規模で米国を抜き世界トップを占めるHSBCのエコノミストの予想など様々な数表・グラフを駆使した詳細な説明が行われました)

2.「人民元取引市場の国際化」
香港上海銀行東京支店外国為替本部長 花生浩介氏
  
・5月28日 安住財務大臣が6月1日より日本での人民元の対円取引を推進すると発表した。
香港では人民元取引は普及しており、HSBCは日本でもすでに一年前から人民元建て個人預金をスタートさせていたが日本では自由化・国際化がなかなか進んでこなかった。これは先々ハシゴを外されるのではないかと危惧する中国に対する不安感が多少あったことは否定できないが、昨年12月に首相が訪中し人民元建て中国国債購入や対円取引の活性化を約束、両国首脳が正式にコミットしたことにより今回国際化がより具体化したものである。
・BIS(国際決済銀行)データによると世界の通貨別流通量では米ドルが圧倒的に多く、ユーロがその半分、人民元はまだ微量に過ぎない。しかし自由化後は第三位の通貨量となるとみられている。現在中国の貿易取引額は3兆5000万ドルでその10%が人民元建てとなっている。ちなみに日本は1兆6000万ドルで人民元建てはわずか1%以下であるが今後急速に増加するであろう。HSBCの予想では2015年には人民元決済は2兆ドルを超え、新興国間の決済の50%を超えるとみている。
・人民元の国際化・規制緩和の歴史はまず貿易決済での自由化から始まった。次に投資通貨(出資 増資などの対外財務直投)の自由化が行われるようになっているが、中国はあくまで実需取引を歓迎しヘッジファンドなどが首を突っ込む投機的取引は嫌っているので証券分野は先のこととなろう。
・世界的にもロンドン、BRICS諸国でも人民元建て取引が拡大しており香港が最大の取引量を誇る。
・自由化が進むにつれ、人民元は為替相場・金利動向も他通貨と同じ動きをするようになり特殊な通貨でなくなってきている。HSBCは中国経済の先行きは強気の見方で見ている。

3.「規制緩和に伴うキャッシュマネージメント」 香港上海銀行東京支店グローバル・キャッシュマネージメント バイスプレジデント 大脇 泉氏 
 
 ・日本における人民元取引・口座開設などは他通貨と同じように可能である。
①口座開設:当座預金、普通預金、定期預金
②仕向送金・被仕向送金
③為替取引
・中国においては日本と比べ総量規制などまだいくつかの規制が残る。
①納税・給与などの収支用に基本口座、当座の収支・貿易などの決済用に一般口座を使用
②非居住者は当座預金口座のみ保有可能 
③日本企業は中国国内での資金移動は海外送金扱いとなり外為の規制をうける
④為替取引、先物取引は不可

・2011年10月より外国からの人民元建て出資が認められ、人民元建て親子ローンも
 認められるようになってきている。
・中国国内でのグループ企業間の直接貸付は禁止されているが、企業間に銀行を介在
させた“委託貸付”という方式をとると銀行に資金をプールすることなどにより企業毎の資金のミスマッチが解消でき余剰資金の集中化やグループ全体の資金の一元管理が可能になる。
4.「人民元建て貿易取引」
香港上海銀行東京支店輸出入部業務推進部長 平田義人氏
人民元建て取引が自由化されると、輸出(日本本社)者から輸入(中国現地法人・中国顧客)者宛に商品が輸出されるケースで、どこに元建てメリットが出てくるかを見てみる。
日本サイド
本社に為替取引を集中し為替リスクを回避
援助が可能
通関手続きの簡素化・コスト削減
中国サイド
人民建てなので為替が発生しない
輸入ユーザンスを付け中国現法の運転資金ユーザンス期間の規制対象外である
通関手続きの簡素化・コスト削減
輸出認証(フーシャオ)手続きが不要
逆に中国から日本に輸出した場合も基本的には為替取引面ではほぼ同じで増値税還付手続が簡素化されるメリットが中国サイドで生まれる。
・HSBCでは輸入信用状開設や輸出手形買い取りなどドルなど主要通貨と同じ貿易金融 サービスを提供できるが、人民元決済の自由化に伴い顧客が殺到するとスタッフの陣容にも限りがあり新規取引先にまで手が回らない状況にあるのでお含み置きいただきたい

会場の様子

原田理事長

HSBC証券白石氏

香港上海銀行東京支店 花生氏

香港上海銀行東京支店 大脇氏

香港上海銀行東京支店 平田氏

イベント報告一覧に戻る