第29回 香港ビジネス懇話会

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第29回 香港ビジネス懇話会 
『転換期における協調と競争:イノベーションに見る日本の競争力』
開催日: 2012年9月11日(火)15:00〜17:00    
所属名:ビジネス交流委員会
場所:日本橋 HSBCビル 10F 大会議室

ギリシャ、スペインなどのヨーロッパ諸国が対外債務問題、失業者の増大などに苦しみ、アメリカも巨額の財政赤字に直面するといった世界的に政治経済が流動化する中で、日本の先端を行く大企業が電機・電子機器、自動車などの得意分野で中国、韓国などの新興国の追い上げにより苦境に陥るといった事象が顕著になってきている。まさに日本経済は転換期にさしかかっているといえるが、二松学舎大学・大学院教授で日本香港協会の理事の一人である手島茂樹氏に様々な数値・グラフを駆使したデータをもとに日本企業の国際競争力の実態や、そこから導かれる日本の課題を詳しく分析・解説をしていただきました。
 
  <手島茂樹氏のプロフィール>
  1948年生まれ。1972年横浜国立大学経済学部卒。1972年日本輸出入銀行(現国際協力銀行)入行。
1977年米国エール大学経済大学院修士課程修了 (経済学修士)。日本輸出入銀行海外投資研究所上席主任研究員を経て、1999年二松学舎大学国際政治経済学部及び同大学院教授、現在に至る。
  海外投融資情報財団評議員、国際貿易投資研究所客員研究員・評議員、日本香港協会理事。
  2003年「海外直接投資とグローバリゼーション」の論文審査により関西学院大学より博士(経済学)号取得。

[講演の要旨]
先進国と発展途上国間での所得格差が縮小して、これまで南北問題と呼ばれていた時代から大きな転換期を迎えている。成長率鈍化が主要先進国共通の現象で、価格よりも品質を志向する先進国型市場は低迷する一方、逆に個々の品質よりも価格が重視され一定の品質の汎用品化された製品がより低価格で提供される途上国・新興国型市場が拡大して現在の成長市場となっている。
特殊性が高い高品質な商品を、閉鎖的な関連企業間のネットワークで取り扱うことの多い日本企業が関連会社の枠を超えたオープンネットワークを利用している欧米多国籍企業や、「標準化」「汎用品化」が進むアジアなどの新興国企業に今後太刀打ちできるのかが、競争力を失いつつある日本企業の課題であろう。

具体的に下記の内容のグラフや図表を表示しながら講演が進められた。
1)先進国と発展途上国の格差が1980年以降縮小してきた流れをGDP成長率から解説。
特に2000年以降、中国、インドなどの後進国の成長率が抜きんでていることが例示された。
2)先進国共通の課題である成長率鈍化の動きを日米独の三ヶ国を取りあげてグラフで解説。 
3)日本企業の競争力のバックグラウンドや特性を欧米企業やアジアなどの新興国企業のそれと対比して相違点を解説。
4)先進諸国で既存の技術体系や生産システムから抜け出すための原動力となる革新的イノベーションによる成長が鈍化していく道筋を説明。
5)その結果、先進国市場(価格より品質志向)が低迷し、一方で発展途上国・新興国市場(品質より価格志向)が拡大して世界経済に占める相対的シェアが高まっていく状況を図表にて解説。
6)品質と価格の相関関係をシュミレーションして、日本経済の国際競争力の優位性と弱点を取りあげた。
7)様々な角度からの分析の結果から、日本企業の特性に結び付いた競争力の弱点が示されて、これまでのような日本市場や日本の基準ばかりを追いかけている限り、国内では強くても海外市場では勝てないという状況から、講演の最後に日本経済が取り組まなければならない四つの課題が提示された。
                   
 [参加者よりの主な質問事項]
日本の国際競争力は20年前は世界ではトップであったが、今や27位へ後退してジリ貧状態だ。これをどのように回復させるかが日本の大きな課題だと思う。少子高齢化、非正規労働者の増加。若年失業者の増加などに加え、特に若者の劣化が目立つ。将来への展望はミゼラブルと見るが、大学で教鞭をとっている手島先生はどのようにお考えか?
講演ではあまり触れられなかったが、日本の国際競争力が弱くなった最大の原因は円高などの為替の要素が挙げられないか?
米国へ出張して目にしたことは、中国製品は低価格で安売りされていることなく日本製品などの先進国製品と肩を並べる価格で販売されていた。ホテルでもTVはソニーなどの日本製品が姿を消し、サムスンなど韓国製品が多く使われていた。世界経済はまた一歩変わりつつあるのではないか?
今日の講演の中で、欧米多国籍企業は日本企業とは違い、オープンネットワークを利用して契約ベースで取引を行っていると話されたが、このオープンネットワークとは今、話題になっている“TPP”と同じようなものか?

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