『若い中国人エリートたちは日本や日本人をどう見ているのか?』

   

講師:フリージャーナリスト 中島 恵 氏
開催日: 2013年2月20日(水)15:00〜16:45
所属名:ビジネス交流委員会
場所:フォーリン・プレスセンター(日本プレスセンータビル)

<中島 恵氏のプロフィール>
1967年山梨県生まれ。拓殖大学中国語学科卒業。在学中に北京大学に留学。日刊工業新聞記者を経て、94〜96年まで香港中文大学に留学。同年よりフリージャーナリストに。新聞・雑誌に中国・アジア関連記事、日本国内のビジネス記事などを執筆している。著書に『職は中国にあり』、『中国人エリートは日本人をこう見る』(日経プレミアシリーズ)など多数あり、日経ビジネスオンラインにコラム「再来一杯中国茶」を不定期で連載中。日本香港協会の会員でもある。
漁船衝突事件、中国反日暴動による日系デパートの打ちこわし事件、尖閣諸島領土問題など問題が山積して日中関係の正常化の目途がなかなか見えてこない中で、中国人は日本(人)をどう見ているのか・・・・と、本当のところを知りたいと思っているところにタイミングよく今回、標題の講演をしていただくことが出来ました。 

[講演の要旨]
中島 恵氏は2012年2月、日本経済出版社より『中国人エリートは日本人をこう見る』を出版。
ご本人いわく「この本は意外だと思ったくらい売れた。日本の大半のマスコミ報道とはかけ離れた視点から書かれたことが原因だろう」と。

※本書執筆のきっかけは何かからこの講演はスタートした。80年代の日中関係は蜜月時代ともいえるほど良好だった。当時は「シルクロード」番組が放映される程度での世界大戦の頃の話はとりあげられなかった。それが現在では、在日中国人は70万人を超え、2010年には中国はGDPで日本を抜き中国脅威論が巻き起こるほどとなった。
一人っ子世代、3億8000万人の消費リーダーで結婚・マイホーム・出産育児・親の介護などの問題を抱え中国社会のひずみを一身に抱えている、日本だけでなく北京や上海に住む80年代(80后)と90年代(90后)生まれのエリート(いわゆる“大学卒業生”またはホワイトカラーの社会人)の約100人にインタビューしてまとめたものが本書である。
※中国のエリート層に的を絞ったのは?
 中国人は個々に意見が異なり、いくら取材しても「全体の意見」や「平均値」は出てこない。又日本のことを知らない日々生活に追われる貧困層に聞いても意味はない。
※若い中国人エリートは日本(人)をどう思っているか? 
 江沢民が90年代に強化した愛国教育は共産党の成り立ちを正当化するもので、日本をやっつけろと反日を煽っているものではない。中国人エリートは近代史をよく勉強しており、明治維新の成功例を日中戦争と同時に学んでいて、中国の報道をそのまま鵜呑みに信じていない。また日本企業の充実した社員教育、高い給与レベル、日本人の公衆道徳心、日本人の真面目さ、丁寧さ、仕事熱心さなど高く評価する半面、日本人の融通がきかない、細かいことを気にしすぎる、何を考えているのかわからずコミュニケーションが難しいなどの欠点も上げている。
  ※反日デモに現れる中国の複雑な社会構造(エリート層は冷静だった)
   デモに参加したのはどんな人々だったのか?就職難・結婚難・住宅難、医療難など構造的不平等社会に不満を持つ下層の“負け組”の人々やSNSのコミュニケーションの輪にすら入れない若者が政府に直接向けられない不満を反日デモという形でぶっつけてきた。彼らの多くは日本人と会話したこともなければ、日本人と仕事をしたこともない人々である。著者が取材した若者や日本人と関わり合いが強い中国人は参加していない。結局、反日デモで破壊されたのは日系企業の現地中国法人で、職を失ったりした犠牲者は中国人社員だった。
  ※日本、中国のいずれか片方だけが理解していないのではなく“日中相互不理解”だという現状を知ることが重要だ。中国のメディア・日本のメディアともに情報の伝え方に問題があり尖閣諸島の国家買い上げの騒ぎの時のように一部の政治家の動きや発言、一つの事象が過度に取り上げるきらいがある。日本人は礼儀正しい人間だと思っていたら、今の日本人は人前でも平気でモノを食べる、昔と大違いと驚くように、お互いに「昔の中国人」「昔の日本人」という残影を見ていて認識がすれ違う。中国は日本のように平均化された社会ではないので、付き合っていくのは一人ひとりの人間だということも忘れてはならない。
[出席者との質疑応答 Q&A]
Q:一部の中国人は日本とまた戦争をしたがっているように見えるがどうか?
A:中国・日本ともにごく一部の戦争をしたがる人間もいるだろう。しかし尖閣国有化をぶちあげた石原慎太郎的人間ばかりではない。ごく限られた人だけだと思う。
Q:福島原発放射能事故汚染で中国へ急遽帰国した人は結構いたが、尖閣問題で急ぎ戻った人はいたか?
A:尖閣問題で帰った人はいなかった。この問題であわてて急ぎ帰国するくらいなら、日本に働きに来たりはしなかったろう。
Q: 日本に対しては反日、では英国に対しては反英の動きがないのはなぜ?
A:日中戦争で日本にさんざん痛めつけられてうえで今日の中国が出来た歴史もあり“近親憎悪”に近い感情があるのかもしれない。


  

  

  

  

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